医学部医学科の幸谷教授と大学院生の工藤さんらが、リンパ腫における細胞外小胞を介した新たな発がんメカニズムを発見しました

医学部医学科の幸谷愛教授(基盤診療学系先端医療科学/総合医学研究所)と大学院医学研究科先端医科学専攻(博士課程)の工藤海さん(現?医学部奨励研究員)らが、東京大学との共同研究により、リンパ腫の発生や悪性化における細胞外小胞(EV)の新規作動メカニズムを発見。成果をまとめた論文が、3月15日にアメリカの科学誌『Cell Metabolism』オンライン版に掲載されました。この成果は、脂質をターゲットとして腫瘍の発生や悪性化を抑制する、全く新しい治療法の開発につながると期待されています。

リンパ腫は、血液中のリンパ球が腫瘍化する血液がんの一種です。腫瘍は、さまざまなタンパク質や核酸などを運ぶ役割を持つEVと腫瘍を取り囲む腫瘍微小環境との相互作用によって形成されると考えられていますが、詳細なメカニズムは明らかになっていませんでした。本研究グループは、腫瘍微小環境において、悪性リンパ腫の組織中にある免役細胞「腫瘍随伴マクロファージ」(TAM)から分泌されるリン脂質分解酵素「分泌型ホスホリパーゼA2」(sPLA2)が腫瘍由来EVを分解し、その分解産物である脂質が腫瘍形成を促進するメカニズムを発見。ヒトにおけるリンパ腫発生を再現したモデルマウスを用いた実験によりsPLA2によるEV分解が腫瘍形成に不可欠であることを証明したほか、ヒト患者検体を用いた解析でsPLA2が腫瘍形成と悪性化にかかわることを明らかにしました。

幸谷教授は、「本研究グループはこれまでに、EVがリンパ腫悪性化のカギを握り、EVを構成するリン脂質に抗炎症機能を持つ多価不飽和脂肪酸(PUFA)が多く含まれることなどを明らかにしてきました。今回、sPLA2研究の第一人者である東京大学の村上誠教授らと意見を交わす中で立てた、『sPLA2がEV膜上リン脂質に作用することで脂質が分解(脂質メディエーターが生成)され、腫瘍微小環境に多大な影響を及ぼす』との仮説を実証できたのは、工藤さんの優れた実験技術と努力があってこそ。支援してくださった本学科の安藤潔教授(内科学系血液?腫瘍内科学/総合医学研究所長)や中村直哉教授(基盤診療学系病理診断学)をはじめ、工学部の先生方にも感謝しています。本学のアピールポイントとして『澳门特区赌场_澳门英皇娱乐_彩客网官网推荐の研究力』も広く発信していきたい」と語ります。

工藤さんは、「本研究では正確なデータをとるため、出血などの副作用を抑制しながらマウスに薬剤を投与する独自の手法も開発しました。大学院の4年間、すべてをささげて取り組んだ研究が実ってうれしい。ご支援いただいたラボのメンバーや研究支援センターの皆さん、共著の先生方に大変感謝しています。『Cell Metabolism』のレビューでは、『EVは、さまざまな変装で我々を魅了した怪盗紳士アルセーヌ?ルパンのように多様な特徴や役割を持っており、工藤はその新たな仮面の一つを明らかにしてくれた』とのコメントをいただき、励まされました。『sPLA2-EV軸』という新たな免役チェックポイントを標的とした新規治療法の開発に向けて、さらに研究を進展させたい」と意欲を語っています。

※『Cell Metabolism』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。

https://www.cell.com/cell-metabolism/pdfExtended/S1550-4131(22)00083-3